瀬間千恵リサイタル

歌うことは生きること、そして愛すること。

歌うことは命を削ることだ、という人がいます。歌うことは命を伸ばすことだという人も。虚弱に生まれてとても20才までは生きられないだろうといわれた私が今も元気でいられるのは、歌から命をもらってきたからだと思っています。歩くより早く、言葉を覚えるまえから歌っていたと冗談にされるほど歌うことが大好きな子どもは、いつも歌っている少女になり、そして歌を専門に学んで歌手になりました。その間どれほどの数の曲を歌ってきたことでしょう。ジャンルを超えたそれらの歌の主人公たちは、いまも家族のように私のなかで眠り息づいている気がします。素晴らしい歌との出会いは、素晴らしい人との出会いでもありました。ひとつの歌にこめられた風景や憧れ、歓びや悲しみや絶望も、さまざまな人の思い出と交錯しながら、夜空に耀きでるオーロラのように煌めき揺れながらあらわれては消えてゆきます。ときには幻聴のように笑い声や涙とともに・・・。
深緑夏代先生、内藤法美先生、勅使河原宏さん、武満徹さん、寺山修司さん・・・多くのことを教わり、大きな影響をあたえてくださった方々はとうに旅立たれてしま われました。残された私は時には途方にくれながら歌を杖として生き歌いつづけています。そんな私のなかにしまいこまれた歌のなかから、血とも肉ともなって私に生きる力をあたえてくれた歌をそっととりだし、私の今の想いを込めて歌いなおしてみようと思い立ちました。10余年ぶりのリサイタルです。舞台は1986年から数回リサイタルを行った草月ホールいままた草月ホールに還って歌えることの幸せ、皆さまにお聴きいただける歓びと感謝を胸に深く、その日を心待ちにしています。

瀬間 千恵